東京都内の中小企業では、物価高騰や人件費上昇、人材不足の深刻化などにより、厳しい経営環境が続いています。
その一方で、人材の確保・定着のためには賃上げも避けて通れません。
しかし、
- 賃上げしたいが利益が出ていない
- 設備投資やDX化を進めたいが資金負担が大きい
- 生産性向上と賃上げを同時に実現したい
と悩む経営者も多いのではないでしょうか。
そんな企業に活用していただきたいのが、東京都中小企業振興公社が実施する
「経営力強化に向けた創意工夫チャレンジ促進事業(賃上げ重点コース)」
です。
本制度は単なる賃上げ支援制度ではありません。
利益が減少している企業や赤字企業が、設備投資やDX化などを通じて経営改善に取り組み、その成果を従業員へ還元することを目的とした助成制度です。
最大600万円、助成率最大4/5以内という手厚い支援内容に加え、既存事業の強化を対象としているため、多くの中小企業が活用しやすい制度となっています。
本記事では、公募要領・募集案内をもとに、制度概要から実務上の注意点、採択のポイントまでわかりやすく解説します。
なぜ今回「賃上げ重点コース」を取り上げるのか
経営力強化に向けた創意工夫チャレンジ促進事業には、以下の3コースがあります。
- 業務改善コース
- 賃上げ重点コース
- 新市場・新分野進出コース
この中でも賃上げ重点コースは、
- 助成上限600万円
- 助成率3/4以内
- 小規模企業は4/5以内
という高い支援内容が特徴です。
業務改善コースと比較すると、対象となる取組内容はほぼ同じでありながら助成率が高く設定されています。
そのため、
「既存事業の改善を行う予定があり、賃上げも実施できる企業」
にとっては、最も有力な選択肢となる制度です。
制度概要|経営改善と賃上げを同時に実現する助成制度
本事業は、物価高騰や経済環境の変化に対応するため、中小企業が創意工夫によって経営基盤を強化する取組を支援する制度です。
賃上げ重点コースでは、
「既存事業の深化・発展」
に取り組みながら、
「賃金引上げ計画」
を策定する企業を支援します。
制度の本質は、
経営改善
↓
収益力向上
↓
賃上げ
という好循環を生み出すことにあります。
単なる賃上げ支援ではなく、
「利益を生み出せる企業体質への転換」
を支援する制度と考えると理解しやすいでしょう。
なぜ今、賃上げ重点コースが注目されているのか
近年は、
- 原材料価格の高騰
- 光熱費の上昇
- 最低賃金の引上げ
- 人材採用難
などにより、中小企業の経営環境は大きく変化しています。
特に人材不足は深刻です。
求人を出しても応募が来ない。
採用しても定着しない。
そうした状況の中で、賃上げは企業存続のための重要な経営課題になっています。
東京都もこの状況を踏まえ、
「経営改善によって生み出した利益を賃上げにつなげる企業」
を重点的に支援しています。
そのため、業務改善コースよりも高い助成率が設定されているのです。
助成内容|最大600万円・助成率最大4/5以内
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 助成限度額 | 600万円 |
| 助成率 | 3/4以内 |
| 小規模企業 | 4/5以内 |
| 助成対象期間 | 交付決定日から1年間 |
| 申請方法 | Jグランツ(電子申請) |
| 対象地域 | 東京都 |
例えば600万円の設備投資を実施した場合、
中小企業の場合
600万円 × 3/4
=450万円助成
小規模企業の場合
600万円 × 4/5
=480万円助成
となります。
東京都の助成制度の中でも非常に手厚い支援内容といえるでしょう。
他コースとの違い|どのコースを選ぶべきか?
本事業には3つのコースがあります。
まずは違いを整理しておきましょう。
| 項目 | 業務改善コース | 賃上げ重点コース | 新市場・新分野進出コース |
|---|---|---|---|
| 対象事業 | 既存事業の深化・発展 | 既存事業の深化・発展+賃上げ計画 | 新市場・新分野への進出 |
| 助成上限額 | 600万円 | 600万円 | 1,000万円 |
| 助成率 | 2/3以内 | 3/4以内 | 2/3以内 |
| 小規模企業 | 2/3以内 | 4/5以内 | 4/5以内※ |
| 賃上げ計画 | 不要 | 必須 | 任意 |
| 専門家派遣 | 最大2回 | 最大2回 | 最大10回 |
※新市場・新分野進出コースは賃上げ計画を策定した場合
業務改善コースとの違い
対象となる事業内容はほぼ同じです。
違いは、
「賃上げ計画を策定するかどうか」
です。
そのため、
賃上げを予定している企業であれば、
- 業務改善コース:助成率2/3以内
- 賃上げ重点コース:助成率3/4以内
となり、賃上げ重点コースの方が有利です。
新市場・新分野進出コースとの違い
こちらは上限額1,000万円が魅力ですが、
- 新商品開発
- 新サービス開発
- 新規市場参入
などの新規性が求められます。
既存事業の改善が中心であれば、賃上げ重点コースの方が取り組みやすいでしょう。
助成率の例外規定|賃上げ未達成で助成率が下がる
賃上げ重点コースで最も重要なルールの一つです。
本コースでは、
賃金引上げ計画の達成
が前提条件となっています。
そのため、賃上げ計画を達成できなかった場合は、
特例助成率(3/4以内・4/5以内)が適用されず、
助成率は2/3以内
となります。
例えば小規模企業が600万円の事業を実施した場合、
計画達成時
600万円 × 4/5
=480万円
計画未達成時
600万円 × 2/3
=400万円
差額は80万円です。
賃上げ計画は「採択のための計画」ではなく、
確実に実行できる計画
を作成することが重要です。
助成金の支払いは2回|助成率4/5でもすぐには満額入金されない
今回の制度で最も注意したい実務ポイントです。
多くの経営者が、
助成率4/5だから480万円戻ってくる
と考えます。
しかし実際の助成金交付は2回に分かれています。
1回目
通常助成率(2/3以内)で交付
2回目
賃上げ達成確認後に差額を交付
という仕組みです。
中小企業のケース
助成対象経費:600万円
最終助成額:450万円
- 1回目:400万円
- 2回目:50万円
小規模企業のケース
助成対象経費:600万円
最終助成額:480万円
- 1回目:400万円
- 2回目:80万円
つまり、
助成率4/5でも、事業完了直後に480万円が入金されるわけではありません。
実務上の注意点
小規模企業が600万円の事業を行った場合、
最終的な自己負担額は120万円です。
しかし実際には、
- 本来の自己負担:120万円
- 後から支給される差額:80万円
を一時的に負担する必要があります。
つまり、
最大200万円程度の資金を準備しておく必要がある
ということです。
助成対象者|どんな企業が申請できるのか
対象となるのは東京都内の中小企業等です。
さらに、
- 直近決算期の営業利益が前期比で減少している
または - 直近決算期において損失を計上している
のいずれかを満たした上で、
賃金引上げ計画を策定すること
が必要です。
つまり、
「利益減少または赤字」×「賃上げ計画」
が申請要件となります。
助成対象となる「深化」と「発展」とは?
本制度では「既存事業の深化・発展」が対象となります。
| 区分 | 内容 | 具体例 |
|---|---|---|
| 深化 | 既存事業の質を高める取組 | 設備導入、DX化、品質向上、生産性向上 |
| 発展 | 既存事業を発展させる取組 | 新商品開発、新サービス開発、EC展開 |
単なる設備更新ではなく、
収益改善につながる取組であること
が重要です。
助成対象経費|何に使えるのか
主な対象経費は以下のとおりです。
機械装置・設備導入費
- 生産設備
- 工作機械
- 測定機器
- 専用機械装置
システム導入費
- 販売管理システム
- 顧客管理システム
- 生産管理システム
- クラウドサービス
販路開拓費
- ホームページ制作
- ECサイト構築
- PR動画制作
- 広告宣伝
商品・サービス改善費
- 新商品開発
- サービス改善
- 品質向上
申請方法と注意点
申請はJグランツによる電子申請です。
郵送申請はできません。
そのため、
GビズIDプライム
の取得が必須となります。
また、
- 交付決定前の契約
- 交付決定前の発注
- 交付決定前の支払い
は原則対象外となります。
申請スケジュール
| 募集回 | 申請受付期間 |
|---|---|
| 第1回 | 令和8年6月1日~6月12日16時 |
| 第2回 | 令和8年9月1日~9月14日16時 |
| 第3回 | 令和8年12月1日~12月14日16時 |
| 第4回 | 令和9年3月1日~3月12日16時 |
※予算状況等により変更される場合があります。
⚠️ 申請準備は早めに始めましょう
GビズIDプライムの取得には数日から数週間かかる場合があります。
また、
- 事業計画書
- 見積書
- 決算書
- 賃上げ計画
などの準備も必要です。
募集開始後ではなく、余裕を持って準備を進めることをおすすめします。
面接審査で見られるポイント
審査員が重視するのは、
- なぜ利益が減少しているのか
- なぜその投資が必要なのか
- どのように利益改善につながるのか
- なぜ賃上げが実現できるのか
です。
単なる設備購入ではなく、
「利益改善から賃上げまでのストーリー」
を説明できるかが重要です。
採択されやすい事業計画の作り方
良い計画は、
課題
↓
改善策
↓
効果
↓
利益向上
↓
賃上げ
が一つにつながっています。
例えば、
受注管理が手作業
↓
管理システム導入
↓
作業時間30%削減
↓
営業活動時間増加
↓
売上15%向上
↓
利益改善
↓
賃上げ実施
という流れです。
活用事例
製造業
加工設備を導入し、生産能力を向上。
利益改善後に基本給を引き上げ。
建設業
施工管理システムを導入。
事務作業を削減し、受注拡大を実現。
サービス業
予約管理システムを導入。
少人数運営を実現し、賃上げにつなげる。
ペナルティ・落とし穴
❌ 賃上げ計画未達成
❌ 交付決定前発注
❌ 単なる設備更新
❌ 効果を数値で説明できない
❌ 資金繰り計画を立てていない
よくある質問(Q&A)
Q. 赤字企業でも申請できますか?
はい。直近決算で損失を計上している企業も対象です。
Q. 他コースとの併願はできますか?
できません。
3コースの併願は禁止されています。
Q. ホームページ制作だけでも申請できますか?
経営改善との関連性が説明できれば対象となる可能性があります。
ただし単独では採択が難しいケースもあります。
Q. 採択されたら満額もらえますか?
実績報告後に助成額が確定します。
対象外経費がある場合は減額されることがあります。
Q. 賃上げ計画を達成できなかったらどうなりますか?
特例助成率が適用されなくなり、助成率は2/3以内となります。
実務上は、事業完了後に交付される1回目の助成金(2/3以内)のみが支給対象となり、賃上げ達成後に交付される予定だった差額分の助成金は受け取ることができません。
例えば助成対象経費600万円の場合、
- 中小企業:差額50万円
- 小規模企業:差額80万円
が支給されなくなります。
そのため、賃上げ計画は「採択されるための計画」ではなく、「確実に達成できる計画」を作成することが重要です。
実務上の最大の注意点は「資金繰り」
賃上げ重点コースは最大4/5以内という高い助成率が魅力です。
しかし、
- 助成金は後払い
- さらに2回に分けて交付
- 賃上げ達成確認後に差額支給
という特徴があります。
採択されたとしても、設備投資資金や運転資金は事前に確保しなければなりません。
申請前には、
✅ 自己資金は十分か
✅ 借入との併用は必要か
✅ 助成金入金まで耐えられるか
を確認しておきましょう。
まとめ|賃上げと経営改善を両立したい企業におすすめ
経営力強化に向けた創意工夫チャレンジ促進事業(賃上げ重点コース)は、利益が減少している企業や赤字企業が経営改善に取り組み、その成果を賃上げにつなげるための東京都の助成制度です。
業務改善コースよりも高い助成率が設定されており、
最大600万円・助成率最大4/5以内
という非常に魅力的な内容となっています。
一方で、
- 賃上げ計画未達成時の助成率低下
- 助成金の2回払い
- 後払いによる資金繰り
など、実務上の注意点もあります。
この制度の本質は、
「賃上げ助成金」ではなく「経営改善助成金」
です。
採択を目指すのであれば、
「なぜ利益が改善するのか」
「なぜ賃上げにつながるのか」
まで具体的に説明できる事業計画を作り込むことが成功のポイントです。
東京都内で設備投資やDX化を検討している中小企業の方は、ぜひ活用を検討してみてください。
経営力強化に向けた創意工夫チャレンジ促進事業
(賃上げ重点コース)
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